2012年10月27日土曜日

7月8日(日) アッヘンゼーバーンの蒸気機関車




【最後尾で押しながら登り終わり、入れ替え線で、列車の先頭に向かう蒸気機関車】

インスブルックからの初めての遠出は、蒸気機関車に乗ってアッヘンゼー(湖)へ。

まず、インスブルックからOBB(オーストリア連邦鉄道)で20分のイエンバッハへ向かい、乗り換えたのがアッヘンゼーバーン(鉄道)。現役で定期運行する世界最古の歯軌条式鉄道(注)で、アッヘンゼー湖畔の終点までおよそ7km、標高差440mを走っている。蒸気機関車の車体に製造年”1889”の数字があり、日本では明治22 年! 123年間も働き続けているのだから、「頑張ってるねえ・・・」と驚いた。
機関車は隅々までよく手入れされ、磨き上げられ、ちっとも古さを感じさせない。車体の赤色と黒色が輝いて可愛いし、小柄ながら存在感がある。世界の鉄道マニアには、憧れの鉄道だと聞く。

(注)歯軌条式鉄道の機関車は、登りでは後ろから客車を押し、下りでは先頭を走る。日本では碓氷峠が有名だったが、別ルートに新幹線が開通し、廃止された。

汽笛が面白い。機関車は無機質なのに、人のお喋りに似ている。汽笛のレバーを押す乗務員の指先加減で、その気持ちがにじみ出るのだろう。

「出かけるよ・・」=「ヒューッ! ポーッ! フォイ!」の汽笛で、静かに動き出した。最後尾の小さな機関車が、 それも後ろ向きで、満員の人間を乗せた大きい客車2輌(帰路は4輌)を押している!
やがてスピードが出、「シュッ、シュッ、ポッ、ポッ」のリズムを響かせて、登り坂を懸命に走る。「それ行け、やれ行け、それ行け、やれ行け」と機関車が自らを励ましているように聞こえる。
線路に沿う家々の前を通過するとき「ピューッ!、フォーッ!」と甲高い汽笛が鳴り響き、家の窓から手を振る人がいる。知人? 家族? だれに挨拶しているのだろう。
「ホーッ! ヒーッ!」と、空気を切り裂くような汽笛。注意を促しながら踏切を通過していく。
急勾配にさしかかると、「シャッ! シャッ! シャッ!」とあえぐように蒸気が立ち昇った。「ドッコイショ、ドッコイショ」と頑張っている!
黒い煙をモクモクたなびかせ、ときおり石炭の燃える匂いが漂ってくる。懐かしい。戦後の日本の鉄道もこんなだった。トンネルに入ると大急ぎで窓を閉めたが、黒煙の汚れはたいへんだったなあ・・・。

最後尾で客車を押していた蒸気機関車が、沿線の最高地点エーベンで、短い複線部分を利用して移動し、先頭に連結した。 帰路、再びエーベンで機関車が後ろから前へと移動して、やっとわかった。狭い山地に鉄道が造られたので、回転するためのレールを敷く地面がない。辛うじて複線を敷き、機関車を移動させているから、向きは同じになるのだと・・・。帰りの蒸気機関車は後ろ向きで客車と対面し、にらめっこしている!

アルプスの視界が拡がる湖への緩やかな坂をくだって、まもなく、終点駅ゼーシュピッツに到着した。

イエンバッハからおよそ1時間、沿線の風景を眺めながら、蒸気機関車の力強さに感動し、40数年前、息子たちに繰り返し読み聞かせた本「いたずら きかんしゃ ちゅう ちゅう」(バージニア・リー・バートン 文と画、むらおかはなこ訳、1961年、福音館書店発行)の場面を、思いがけず鮮やかに思い出した。

そうそう、車掌のパーフォーマンスも忘れ難い。「ハイホー、ハイホー・・・」と高らかに歌いながら、窓の外から客車内を覗き込んで、切符の改札をしたのだ。車体の外側にある板をヒョイヒョイと伝い歩きする姿は、身軽に枝から枝へと移動する猿を連想した。時速7キロ程度で走っているけれど、「足を踏みはずすことはないのだろうか」と、ヒヤヒヤした。諺に「猿も木から落ちる」とあるのだから。

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