2012年11月18日日曜日

7月10日(火) ②ツィラタール鉄道の蒸気機関車




【ツィラタール鉄道、蒸気機関車に牽かれる列車。「アルプス・チロルの鉄道」(JTB出版)から転載】

インスブルック8時52分発のOBB(オーストリア連邦鉄道)に乗り、イェンバッハでツィラタール鉄道に乗り換え、アルプスの山あいの谷を南に辿って行く。北へ向かうアッヘンゼー鉄道とちょうど反対方向だ。

7月8日の日記に書いたアッヘンゼー鉄道の蒸気機関の列車は、標高差約440メートルの山岳地帯を走っている。横綱が豪快な押出し相撲を決めるのに似て、蒸気機関車は、進行方向の前に連結した車両を押す力持ちだ。急勾配でもボイラーを水平に保つために、前のめりの傾斜がついていて、蹴躓いたときの「オッ、トッ、ト」の感じだった。乗客を観光地に運ぶだけでなく、蒸気機関車そのものの夢を運ぶ趣があった。

ツィラタール鉄道は、イェンバッハからマイヤーホーフェン間のほぼ平坦な谷あいの32kmを走る。軌道は760mmで、世界でいちばん狭い。創業以来100年を超え、沿線住民の生活に密着した鉄道だ。観光シーズンには、日に2往復蒸気機関車を走らせ、週末には一部の区間で、運転体験のプログラムを組むサービスもある。

乗車ホームの外れにある給水タンクの前で、蒸気機関車への給水が行われている。
”きわめて、まともな小さな蒸気機関車”だが、「また、蒸気機関の列車に乗る」と、子どものように単純に期待した。

列車内の向かい合う椅子席の間の小さなテーブルに、「時刻表」が印刷されている。それを見ると数駅毎に停車駅がある。その間の途中駅はスキップすることになっているのに、実際はほとんどの駅に停車している。
「どうしたのかしら?」と訝ったが、やがて徐々に様子がわかってきた。スキップ駅から、列車の車掌に連絡すると停まる。乗客が降りたい駅があれば、列車内にあるボタンを押せば、停車する。そんな仕組みだった。
それでも決まった停車駅には、ほぼ時刻表どおりに着く。鉄道は単線だから、すれ違う駅で停車し、早く着いてもすれ違う列車が来なければ、前に進めない。
要点をおさえた時刻表は実に合理的で、住民の利便性に配慮しているなあと、感心した。

実に滑稽な話だが、私は蒸気機関の列車に乗ったと思っていた。
帰国後、夫から「あのときは、ディーゼルの普通車に乗ったんだよ。あんたさんには参るなあ・・・」と呆れられ、大笑いになった。
どうやら、イェンバッハでの乗換えホームで給水中の蒸気機関車をみたことが、原因だったらしい。列車は「ピーッ」も「フォーッ」もなく、静かに発車したし、臨機応変に停車したのも、日常的に利用されている沿線住民の足だったからだ。
その段階で気付かなかったことに愕然とし、夫が二人旅の企画をして詳細はすべてお任せだったことが、思い込みを助長したらしい。いや、はや。

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