2013年3月12日火曜日

7月22日(日)レッヒへ1泊の旅
数日前、ホテル・ロビーの掲示板に「フォアアールベルク州のレッヒへの1泊の旅」の案内が出た。
「冬は雪深いのでスキーが盛んなヨーロッパの高級リゾート地。王族・貴族の社交の場になっています。夏は斜面を辿るハイキングが盛んです。ハーブの宝庫で、それらを使った美味しい料理もあり・・・」。

早速ガイドブックや地図を眺めると、レッヒのあるフォアアールベルク州はオーストリアの西のはずれで、領域は狭い。北側にはドイツ、西の一部にはリヒテンシュタイン、西から南にかけてはスイスの国境が迫っている。

700年前には人が住んでいなかったアールベルクの谷間(レッヒ)に、スイスの農民がやって来て定住し、文化的にはスイスの影響が強いという。
「スイスねえ・・・」と、10年前の滞在を思い出した。スイス人は働き者だし、利に聡い民族だし。ハプスブルク家の支配から独立を勝ち取って以来、小国ながら独自の歴史を辿っている。レッヒにやってきた開拓農民には、そのDNAが流れているのだろう。彼らはオーストリアに定着したゲルマン民族とは異なる一派で、今でも言語が違うという。

レッヒは辺境の山奥の村だから、ヨーロッパ国際特急列車(EC)に乗ってザンクト・アントンまで行き、バスに乗り換えても時間がかかる。個人で出かけるよりはツアーに参加した方が便利だ。スイスの影響やハーブの宝庫という惹句に興味を持ち、申し込んだ。

往きは貸切バスで、9時にホテル出発。もう一つのホテル「クラウアー・ベアー」に滞在している参加者がすでに乗っている。日帰りの参加者は、帰りもこのバスを利用する。1泊参加者11名は、バスと列車を乗り継いで帰ることになっている。

往きの車中では、オーストリアやレッヒを紹介する映像が流れ、訪れる土地の事情がわかって面白かった。チロル州議会見学での説明では、「環境保護」はオーストリアの大事な政策だった。映像は、その具体的な例を次々に映し出した。

買い物を入れるビニール袋はトウモロコシの枝や葉で作られ、1枚20セント(滞在中の1ユーロ=100セントは100円前後だから20円)で売られ、何回も利用されている。
空瓶は1本50セント(50円)、ペットボトルは35セント(35円)を価格に上乗せしているが、返却すれば現金が戻ってくる。
生鮮食料品は原則としてバラ売りで、自分で秤にかけるか、レジで計ってくれる。野菜類は有機栽培が多い。
車の利用を抑えるために、身分証明書を提示すれば1時間以内は無料で自転車を貸し出している。電気自動車の充電スタンドが、どこの自治体にも設置されている。
コンテナによるゴミ分別が徹底し、衣類は発展途上国へ送っている。

現在のレッヒ人口は1400人。観光客で増える時期でも、無駄なゴミを出さない生活を徹底すれば、街が綺麗になると強調する映像を眺めながら、その方針に沿った暮らしには、住民の意識が土台になっていることを痛感した。

次第に標高が高くなって、耳鳴りがする。バスは深い霧の中をひたすら走って行く。
やがて、片側に窓があり、屋根が張り出している長いトンネルに入った。チロル州とフォアアールベルク州の境界に造られたアールベルク車両トンネルで、14kmほど続く。州境のアールベルク峠(1793メートル)は、古くから交易路の難所だった。トンネルの開通によって、レッヒ村などオーストリア西部へのアプローチが大きく変わり、山岳高級リゾート地になったという。
小さな窓からは、走って来た道や、白く弾けた水が崖から筋条に落ちている様子が、ちょうどまわり燈籠のように変わりながら、覗き見える。

窓外の曇天を気にしながら風景を眺め、ツルス村を通過すると、急坂の下りになった。10時35分頃、レッヒ村(標高1444メートル)の入り口に到着。一山越えて辿り着いた感じがした。

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