2012年3月10日土曜日

アラビア世界を回航ルートで巡る船旅

何度思い返しても、このクルーズは、得難い旅だった。

2010年の晩秋、馴染みの旅行社のパンフレットで、「回航ルート」のクルーズの案内を読み、心が動いた。寒い季節にインド洋を舞台に、ペルシャ湾やモーリシャス・セイシェル方面をクルーズしていた船が、夏前に、地中海のクルーズのために、移動する。これが回航である。

実は、パンフレットを読む2ヶ月前・2010年秋に、「西ヨーロッパ周遊の船旅」という「回航ルート」クルーズを初めて経験したばかりだった。 春から夏にかけバルト海と北海の観光クルーズを展開している船が、秋から冬には地中海で活動するため、年に1回、移動する「回航ルート」だった。コペンハーゲンで乗船し、バルト海・北海・北大西洋と南下して地中海に入り、イタリアのジェノバで下船。思い出すたびに「いいクルーズだったね」と、夫婦して、予想外に満足していたのだ。

かつて訪れた陸地を海から眺めながら、「ここをバイキングも辿ったのだ」と、多くの民族の交流に思いを馳せた。切り立つ岩肌に守られた入江を眺めれば、中世都市の繁栄と商業活動を担った荷を積んだ船の往来が目に浮かんだ。

夢想が止めどなく続き、ヨーロッパの密接な地理的なつながりと歴史などを改めて考えた。船上にいながらにして、なんと多くのことが理解できたか。

「回航ルート」のクルーズは、通常のルートとは違い、めったに経験できないルート沿いの観光を効率よく訪れることができる。船会社にとっても、単なる移動の航海より、観光客を乗せた方が儲かるし、乗客にとっても旅行代金がサービスされて、極めて便利な企画だ。

「来年は、数えにしても、実年齢にしても、要するに夫婦で喜寿を迎える。アラブ世界を訪れたことがないし、記念旅行になるんじゃない?」と妻。「回航ルートは魅力的だけどなあ。出かけたばかりだよ。あんたさんが申し込み手続きその他の全てをするのなら、いいけれど・・・」と夫。 こうして、今までの立場逆転で申し込みを済ませ、順調に時間が過ぎていった。


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