2014年11月1日土曜日

[NYへの旅] ⒍読書をめぐって


2日目  3月17日(日)その3

到着したばかりなのに、積もる話を取り留めもなく、喋り続けている。
手紙で家族の近況を伝える付き合いが、メールの出現で変わった。今日の出来事を直ちに情報交換したり、感想を伝えたり。以前よりも、緊密な関わりができるようになったが、直接に話すことのほうがずっといい。お互いに確実に高齢になって、健康維持の努力とか、人生の終わり方とか、話は切実で具体的になった面もあるが、大部分は、身近な関心事が中心だったが、読書を巡る話も多く、図書館が取り持つ縁を感じた日となった。

夕方から一緒に食事をするTさんとは旧知の仲で、以下はその縁の紹介を兼ねて読書にまつわる記録になる。

数年前、ヒルダガードから「読書会で一緒の友人の息子さんが、東海村に初めて行くことになった。よろしくね」と連絡があったのが、Tさんを知るそもそものきっかけだった。
彼女の夫は、BNL(ブルックヘブン国立研究所)で働いていたが、交通事故で突然亡くなった。研究室の上司が心配し、Tさんは研究所の図書館で働けるようになった。まだ小さい息子と娘を抱え、日本に帰る選択肢もあっただろうに、図書館で働きながら、アメリカ生まれの子どもを見事に育てあげた。現在も研究所図書館のベテラン・スタッフとして働いている。

Tさんの長男は、父親と同じ物理の研究者になり、カナダのバンクーバー大学に勤めている。大学が日本の高エネルギー加速器研究機構との共同研究のプロジェクトを持ち、東海村の日本原子力研究開発機構に実験施設がある。そのために彼は、実験のためにしばしば日本にやって来るが、そんな機会にわが家で食事をしている。いつだったか、彼の中国系アメリカ人の夫人が香港に里帰りする機会に、あるいは、Tさんが長女夫妻と日本観光で訪れたときにも、わが家で食事を共にした。
図書館と研究所などの関わりが、Tさん一家とわが家の交流になっているのだから、面白い。

さてヒルダガードは、美術・文学・音楽・演劇などの知識が豊富で、それを活かして地域の図書館で働いている。今年は週に2日の午前中、絵画展の企画やコンサート・オペラ鑑賞のチケットを斡旋する仕事をしている。個人的には、図書館に集まる有志の読書会に参加しているから、前述のTさんはじめ図書館を中心にした友人が多い。
彼女は言う。「小さいときから本に親しむ習慣は、大人になっても読書の興味を持ち続ける基礎になっている。読書は大事な教育なの。大人になってからの宝になるわ。図書館では、若い母親が子どもに絵本を読み聞かせているし、テーマを決めた読書会が盛んだし、退職後の男性が余暇を楽しんでいるし・・・」と。

夕刻、Tさんと姪のユリさんが揃って訪れた。
ユリさんは、化学を専攻している21歳の大学生で、ニューヨークを訪れている様子を話した。「4月からは卒業実験で忙しくなるので、春休みを利用して、初めてニューヨークに来ました。将来の仕事に英語が大事だと思うので、会話の経験をしたいし・・・」と言い、Tさんに促されて懸命に英語で話す様子が若々しく、印象に残った。

ヒルダガードとTさんが図書館で働いているからだろう。話題になっている日本とアメリカの作家や小説や、小説を原作にした映画の話になった。2人とも、”CHERRY  BLOSSOMS”はお薦めのよい映画だと言う。日本映画の話題から、映画「細雪」になり、谷崎潤一郎の名前が出た。
Tさんが、「ユリさん、谷崎潤一郎を知っているでしょ?」と聞くと、しばし考え込み、「ウウーン。知らない・・・」と反応したので、「おやまあ、知らないの? 恥ずかしい・・・」とTさんは驚き、のけぞった。「やっぱり時代を感じるわねえ」とお互いに理解したのだが・・・。

夫は、「若い人はマンガ世代だから、そっちの方には詳しいのでしょう?。いつの時代でも、古い小説を読む若者は珍しいかな?  高齢者には、漫画はあんまりピンとこないし・・・・」と、助け船を出した。
ニューヨーク到着後、偶々図書館活動について話したばかりだから、日本の若者の読書を知る機会になった。

彼らが帰った後、後片付けは食洗機にまかせて、「楽しかったわ、ありがとう」と再度、乾杯。テレビニュースを観ながら、日本と中国の外交問題や、EU圏内の経済問題を話す。ドイツとギリシャの立場には、国民性の違いが大きいし、これからも難題が山積していると、おしゃべりが続いた。

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